1.「かかりつけ医」を持つことについての現状と、
今後の普及への取組について
2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症も、流行の波は現在「第7波」に。対ウイルスという目に見えない感染の恐怖と隣り合わせに、コロナ禍に翻弄され続けて3年となる。
この間、医療機関への受診に際してよく耳にするようになったのが「かかりつけ医」というワード。
例えば、発熱などの症状があり“コロナかも!?”と疑う場合は、まずは「かかりつけ医」で電話相談することとなり、「かかりつけ医」をもっていない場合には「受診・相談センター」で電話相談する、この二本立てで一次対応を行ってきた。
また、第7波で病床使用率が80%を超えた時には、夜間・休日の救急外来は避け、できる限り平日の日中に「かかりつけ医」などを受診。コロナワクチンの個別接種については「かかりつけ医」で。ワクチンの接種後、副反応を疑う症状を示した人には、まずは「かかりつけ医」を受診して…など、コロナ禍での医療体制で「かかりつけ医」の役割が増していると感じる。
「かかりつけ医」とは、一般的には、『日常的な診察で健康状態や体質・病状を把握し、なんでも気軽に相談できる身近な医療機関』を想定。ところが、頻繁に耳にすることとなった「かかりつけ医」について、若い世代からは「コロナワクチンをかかりつけ医で接種といわれても、かかりつけ医がいない」との声や、また、幅広い年代層からも、かかりつけ医だと思っていたのに「かかりつけ患者ではない」とワクチン接種を断られたなど、「かかりつけ医」をめぐっては困惑の声も聞かれる。
そもそも「かかりつけ医」とは何なのか?まずは「かかりつけ医」へ、とアナウンスされるその「かかりつけ医」には、実は法律上の定義がない。医者と患者との間で、「かかりつけ医」となる基準も曖昧なので、双方の間には片思いなるケースも発生する。
日本医師会では、「かかりつけ医」とは自分が住んでいる地域で、気軽に健康相談にのってくれる近隣の診療所やクリニックのこと。「かかりつけ医」はなんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知し、必要なときには専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師のこと、と定義付けをしているが、これはあくまでも医師会での定義であって法律上に定められたものではない。
日本医師会総合政策研究機構(略称、日医総研)が2022年6月8日に公表したワーキングペーパー「日本の医療に関する意識調査2022年臨時中間調査」で、全国の20歳以上の男女1152名を対象に「かかりつけ医」についてどう考えているか…をヒアリングしたところ、「かかりつけ医がいる」と答えた人は全体の55.7%。年齢別にみると、29歳以下では29.7%、30~39歳は37.9%、40~49歳では44.4%で、50~59歳でやっと半数の50.5%となり、70歳以上になると76.5%。基礎疾患がまだ少ない若年層にとっては、「かかりつけ医を持つこと」の実感は薄いものの、新型コロナウイルスを教訓に「かかりつけ医がいない」と答えた人の多くが「かかりつけ医はいるとよい」と答えている。そして、「かかりつけ医はいるとよい」と答えたうちの60%が、「どのような医師が適しているかわからない」「探す方法がわからない」など、「かかりつけ医に関する情報の不足」を訴え、かかりつけ医を持たない理由でもあるとして、情報提供を希望する声が上がっている。
「かかりつけ医」には定義がないといわれながらも、コロナウイルス感染症での医療体制で「かかりつけ医」の役割は大きくなり、本県も含め各自治体は「かかりつけ医を持ちましょう!」とのスタンス。しかし、日医総研が行った調査では、「かかりつけ医」を持っているのは半分程度で、日頃から医療機関を受診する機会も少ない20~30代の若い世代では3割以下。では、愛知県ではどうなのか。私が調べた限りでは、本県の「かかりつけ医」に関する状況を調査した結果を見つけることができなかった。
Q:県はこれまで、県民の方がどの程度「かかりつけ医」を持っているのかなどの実態調査を行ったことはあるのか?行っていないのであれば、「かかりつけ医」を持っている割合など、「かかりつけ医」に関する実態把握の必要性を感じるが、県の見解をうかがう。
【保健医療局長】
県民の健康で安心な生活を守るために、県民の皆様がかかりつけ医を持つことは大変重要なことであると考える。
一方で、かかりつけ医は制度化されたものではないため、医療を提供する側と医療を受ける側など、立場によってかかりつけ医のとらえ方に相違がある。
これまで、県ではかかりつけ医に関する実態把握の調査は行っておらず、県からもかかりつけ医の活用を県民にお願いしていることを踏まえると、実態を把握しておくことは大変意義深いことと思う。今般の新型コロナウイルス感染症をきっかけにして、かかりつけ医を持つことに県民の関心も高まっており、かかりつけ医に関する実態調査の早期実施に向けて、愛知県医師会等の関係団体と調整を進めていく。
さて、日医総研の「かかりつけ医」についてのヒアリング調査では、かかりつけ医を持たない人の大半が「かかりつけ医がいるとよい」と答えているものの、「かかりつけ医」を探すにあたって『かかりつけ医に関する情報の不足』を感じていると答えてる。
現在、47都道府県では、広く国民に「かかりつけ医」をもってもらうための判断材料のひとつとして、「医療機能情報提供制度(通称:医療情報ネット)」を整備している。本県でも、平成19年4月1日からの医療機能情報提供制度の創設に伴い、「あいち医療情報ネット」の運用が始まっており、病院、診療所、歯科診療所、助産所及び薬局の管理者は、県に自らの医療機能情報を報告する義務があり、県はその情報を住民・患者に分かり易い形で提供することとなっている。現在、県内約10,000機関の多岐にわたる医療機能情報が客観的な情報として医療情報ネットに集約されるので、誰でも気軽にインターネットで医療機関の情報を検索できる。
ところが、都道府県がインターネットを通じてすべての医療機関の医療情報を発信しているこの「医療情報ネット」について、日医総研がかつて調査した結果から、インターネット上の都道府県ホームページの中に、「医療情報ネット」という医療機関を検索できるウェブサイトがあることを知っていますか?また利用したことはありますか?を聞いたところ「知っている、利用したことがある」と答えた者の割合は4.6%、「知っているが利用したことはない」が12.1%。そして、残念ながら「知らないので、利用したことがない」と答えた者は、ナント!82.6%という結果だった。
身近な医療機関やかかりつけ医を探したいときには「医療情報ネット」を活用しましょう!と、医療機関の診療科目や対応可能な治療など、患者さんにとってわかりやすい情報を公開しているものの、日医総研では「稼働している都道府県の医療機能情報提供制度のサイトの充実。活用や情報発信を積極的に推進することが喫緊の課題」と訴えている。
そうなると、本県の「かかりつけ医」を探すためのひとつのツールでもある「あいち医療情報ネット」がどれほど周知されているかが気になるところ。
海外では、特定の医師を「かかりつけ医」とする制度が定着している。例えば、ドイツでは2004年に「家庭医制度」、フランスでは2007年に「主治医制度」が導入され、患者はまず自分が選択した医師「かかりつけ医」を受診し、必要に応じて他の専門医などの紹介を受ける。
わが国では、緊急な医療を必要としない軽度の病気やケガであれば身近な診療所やクリニックを受診してもらい、大病院での初診では診療所やクリニックなどの「かかりつけ医」の紹介状があれば初診料だけで、プラス5,000円以上の特別料金は不要で診察してもらえる。
一次医療は「かかりつけ医」、二次以降の医療は専門医や病院が担う役割分担の明確化=地域医療連携の推進に加え、今後需要拡大が見込まれるオンライン診療の環境整備という観点からも、地域住民の健康を守るゲートキーパーとしての「かかりつけ医」は必要となってくる。
Q:コロナ禍での教訓として、「かかりつけ医」を持ちたいと思っても、どのように探せばいいかわからない、との声が多く上がっている。
今後、国の方でも、かかりつけ医機能に関する議論が本格化する中で、県民への必要な情報が提供される必要があると考えるが、本県として「かかりつけ医」を持つことを普及させるため、どのように情報発信などを図っていくのかうかがう。
【保健医療局長】
本県では、県民の皆様が身近な医療機関やかかりつけ医を探したいときに、インターネット上で医療機関の情報を検索できる「あいち医療情報ネット」を運営している。昨年度は年間約19万件のアクセス件数があり、1日平均でみると500件を超える利用実績となっている。
かかりつけ医に関する情報提供の手段としても有用なあいち医療情報ネットについて、若い世代の方にも活用してもらえるよう、例えば、大学生協のウェブページにリンクを貼り、閲覧の機会を増やすなど、今後も周知に努めていく。
さらに、30代や40代の方々に対しても、健康保険の保険者と連携するなど、効果的な周知方法を検討していく。また、国はかかりつけ医機能を制度化し、2024年度から始まる第8次医療計画の中で位置づけるよう、かかりつけ医機能に関する議論を鋭意進めている。県では国の動向をしっかりと注視していくとともに、県の広報誌や広報番組などを通じてかかりつけ医を持つことの普及啓発にしっかりと取り組んでいく。
2. 75歳以上の新しい免許更新制度と、
高齢ドライバー対策について
内閣府が公表した「令和3年版高齢社会白書」によると、75歳から79歳の2人に1人が、そして80歳以上では4人に1人が外出する手段は自分で運転する自動車。さらに、80歳以上の6割が「ほとんど毎日」車を運転し、日常生活に欠かせない「大切な足」だと報告されている。
本県は、押しも押されもせぬ「自動車王国」として、移動手段としての車への依存度は高い。自動車保有台数は全国一、運転免許保有者数も全国三位。
当然のごとく高齢ドライバーは多く、愛知県内の65歳以上の運転免許保有者は令和3年で1,112,323人と、10年前の1.4倍。内、75歳以上は383,426人で、こちらは1.8倍となっている。
今、全国的に交通事故の発生件数も死者数も減少傾向にあり、本県でもここ5年間で人身交通事故件数は14,930件減少、死者数も83人減少している。
ところが、高齢者による事故発生件数は減少しているものの、65歳以上の高齢ドライバーが「第一当事者」となる割合は増加傾向にある。令和3年をみると、65歳以上の高齢ドライバーが「第一当事者」となった人身交通事故は、全事故数の2割にあたる4,512件。さらに75歳以上になると、その内の約4割の1,801件。死亡事故を起こしたドライバーは101人で、その内65歳以上の高齢ドライバーは26人。その内の約6割にあたる16人が75歳以上。5年前と比較すると、年々、高齢ドライバーの事故比率が上がり、令和3年には全体の2割に達している。団塊の世代が75歳以上になる2025年には、4人に1人が75歳以上となることから、本県でも後期高齢ドライバーの増加は容易に想像でき、高齢ドライバーの安全運転対策は急務と言える。
そんな中、本年5月13日からは、高齢ドライバーによる事故を減らすための新しい免許更新制度がスタートした。75歳以上のドライバーを対象に、過去3年以内に一定の違反行為があった人は免許更新の際に運転技能検査=実車試験=が義務化され、結果によっては免許更新ができなくなる。一定の違反とは、信号無視や速度超過、横断歩行者等妨害等など、重大事故につながりやすい11類型の違反行為の中から一つでも違反があれば実車試験の対象。
警察庁のデータでは、75歳以上の高齢ドライバーのうち、過去3年間に何らかの違反歴のある人は、死亡重傷事故をおこす確率が全体の約1.8倍。さらに、新制度での違反対象に挙げられる重大な事故を起こす危険性がある11類型の違反行為「一定の違反行為」を起こした人に絞り込むと、その死亡重傷事故の確率は約2.1倍に増加する、との裏付けもある。そうなると、新制度で対象の信号無視や速度超過などの違反歴がある高齢ドライバーに実車試験を課すことは、高齢ドライバーの事故抑止にもつながるはず。
そもそも、新しい免許更新に実車試験が導入された背景には、2019年4月に東京・池袋での87歳高齢男性が運転する乗用車が暴走し、母子二人が死亡する事故に関係する。2009年6月施行の道路交通法から、75歳以上のドライバーについては3年ごとの免許更新時における「認知機能検査」が実施されており、この事故の加害ドライバーは、事故前に受けた認知機能検査では“問題なし”と判断されていたことが判明。高齢者の交通事故の原因は認知機能の低下だけではなく、加齢による身体機能の低下や判断の速さの衰えなども重大な事故を起こす要因としてクローズアップされた。
現実に、高齢ドライバーの事故では、認知機能に問題なくともブレーキとアクセルとを踏み間違えるような「操作不適」や「安全不確認」など、基礎的な運転能力の低下に伴う事故が目立つ。
警察庁が2021年に75歳以上のドライバーによる死亡事故を分析した結果でも、約3割がハンドルやブレーキなどの操作ミスが原因だったといい、本県の場合でも昨年は、ハンドルやブレーキなどの操作ミスは363件。その内、65歳~74歳は17%の62件、75歳以上は14%の51件で、65歳以上としてみると、ハンドルとブレーキによる「操作不適」は全体の31%であった。
車の運転能力は、年を重ねるごとに低下していくことは避けられないが、高齢ドライバーの多くは自分は車の運転に慣れている、安全運転には自信がある、と身体能力の衰えよりも運転歴と運転技術を過信するあまりに事故につながってしまうケースも少なくない。
時には、自身の運転技術の変化への気づき、これもまた必要。
この5月からスタートした後期高齢者対象の運転免許更新制度で行なわれる実車による検査では、自動車教習所などのコースを実際に走行する基礎的な運転能力を確認するもの。検査内容は5つの課題「指示速度による走行」「一時停止」「右折・左折」「信号通過」「段差乗り上げ」をクリアしなくてはならず、100点満点から危険性に応じて減点方式で採点され、70点以上で合格、不合格であっても、何度でも挑戦でき、更新期限までに合格できなければ免許が失効することとなる。
愛知県では、運転免許試験場と東三河運転免許センターのほか、県内50か所の教習所のうち、8月末現在で27か所が検査の会場となり、今年は12月までに6,000人の受検者を予想していると聞いたので、まずは質問。
Q:運転技能検査の導入を始めとする高齢ドライバーの免許証更新に係る、新たな制度がスタートして約4か月が経過したが、現在の運転技能検査の実施体制や運用状況についてうかがう。
【警察本部長】
運転技能検査は、75歳以上の高齢運転者のうち、過去3年間に信号無視など一定の違反行為がある方を対象に、身体機能の低下に関わる運転技能について検査を行うものであり、不合格の場合は、運転免許を更新できないこととなる。
検査の実施体制については、運転技能検査に必要な自動車コース等の施設を有する運転免許試験場と東三河運転免許センターに検査対象者数に応じた検査員を配置した。さらに、県下27か所の自動車教習所においても検査を実施できるようにし、運転技能検査を円滑に実施する体制を整備した。
検査の運用状況については、令和4年8月末現在、2,883件で、そのうち合格したのは2,078件、合格率は72.1%となっている。
県警察では、運転技能検査と認知機能検査を同日に行えるよう、あらかじめ、実施日時・場所を指定させていただくことで、待ち日数の増大や、予約が取りづらいなどの問題に対応している。
県警察としては、引き続き、運転技能検査を始めとした新たな制度の適正かつ円滑な運用に努めてまいりたいと考えている。
さて、高齢運転者の安全対策は現在、70歳以上には免許更新時の高齢者講習を、75歳以上には認知機能検査が義務付けられる中、本県の令和3年の75歳以上の認知機能検査で「認知機能の低下のおそれあり」と判断されたのは、受診者133,658人の内、約25%にあたる33,040人だとお聞きした。さらにその中から3,644人が「認知症のおそれがある」との判定から専門医の受診を勧め、結果、医師の判断から免許の取り消しになった高齢者は185人だったそう。
できれば、「認知症のおそれがある」と指摘されながらも医師の判断で免許の取り消しにまで至らなかった3,459人のような高齢者については、運転免許の自主返納をお考え頂いた方が…とは誰もが思うこと。
警察庁が発表している資料で、75歳以上の免許更新者に自主返納をためらう理由についてアンケートをおこなったところ、「車がないと生活が不便」と回答した人が7割近くになっている。このアンケートの対象者は「免許の自主返納を考えたことがある人」ということで、公共交通機関が発達していない地方では、身体機能の低下を実感し、運転免許証の返納を検討しながらも、現実には買い物や通院など、日常生活を維持するためには運転の継続を選択せざるを得ない高齢ドライバーが多数おられるということ。
さらに、地方にいて常に車の運転をしていた人が運転免許を返納してしまうと、ほとんど外出することができなくなるため2~3年で要介護状態になったり、認知症のような状態になったりする可能性が高まることも報告されている。
今後、高齢化社会の進展に鑑みれば、運転免許人口に占める高齢者の割合は高くなっていくことは明らかであり、加えて70歳定年延長や定年制廃止などで高齢者がハンドルをにぎる機会はますます増えていく。高齢ドライバー対策は、「高齢ドライバーを免許返納させれば一件落着」という単純な話ではない時代に差し掛かり、免許返納を推奨する一方で、高齢ドライバーが安全に運転を継続できるよう、適切なサポートを行うまさに“二刀流”も警察の役割になってきたのではないかと思う。
Q:新しい後期高齢ドライバーの免許更新制度の導入を踏まえ、県警の高齢ドライバー対策への取組をうかがう。
【警察本部長】
県警察では、高齢ドライバーに対しましては、可搬型運転シミュレータを活用した運転診断等の参加・体験・実践型の交通安全教育を実施しているほか、免許更新時における高齢者講習や運転技能検査を通じて、加齢に伴う身体機能の変化が運転に及ぼす影響を客観的に認識していただき、運転に不安を感じている方に対しては、運転免許証の返納についてご家族の方も含め、案内をしている。
一方で、運転を継続される方に対しては、これらの取組を通じて安全運転意識の醸成を図るとともに、より安全に運転していただくため、関係機関と連携し、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違え時加速抑制装置などの安全運転サポート車の機能を体験する試乗会等を開催して、同車両の安全性を実感していただくなど、普及啓発を推進している。
また、運転できる自動車をサポートカーに限定することにより事故抑止効果が期待できるサポートカー限定免許の有用性や、同免許証を提示することにより、事業者からの割引等が受けられる特典制度について、あらゆる広報媒体を活用して周知を図っている。
県警察では、引き続き、より多くの高齢ドライバーが加齢に伴う運転能力や身体機能の変化を自覚していただくための安全教育等の充実を図り、運転免許証の返納と安全な運転の継続を両輪とした対策を推進し、高齢ドライバーによる交通事故の抑止に繋げていく。
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