1.コロナ禍で「東京一極集中」に陰りが見え始めた中での
本県の移住定住促進策について
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、20年以上にわたりあらゆる政策の力でさえも止めることのできなかった「人口の東京一極集中」は、コロナ禍にさらされたこの一年半であっけなく流出に転じた。
内閣府が2021年6月に発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、東京23区に住む若い世代の5割近くが地方移住に関心を持っているという結果に、今こそ、東京一極集中を是正し、愛知への人の流れをつくるチャンスの到来だ。
愛知の強みや魅力など住みやすさを大いに発信し、地方移住に関心を持つ人のための就業の機会の提供や、さらに山や海の自然に恵まれた「田舎暮らし」の後押しなど、「愛知へ移住」そのトレンドを加速させるための取組みについて順次うかがう。
国は東京一極集中に歯止めをかけ、地方へのUIJターンを促そうと、東京23区に在住もしくは在勤する人が地方に移住し、5年以上居住する意思があり、かつ、県内企業の求人を紹介するマッチングサイトの掲載企業に1年以上継続して就職すれば、1世帯当たり100万円、単身の場合は60万円の「移住支援金」を支給する「地方創生移住支援事業」を2019年度からスタートさせている。
この「移住支援金」は国の地方創生推進交付金により支援するもので、国が2分の1、県と市町村が4分の1ずつ負担し、現在、全国43道府県・1,252市町村で展開中。本県でも全54市町村のうち、常滑市と大治町を除く52市町村で、内、名古屋市や春日井市、豊川市、刈谷市、犬山市など17市町については『移住者の居住地と就業先が同一市町村であること』を移住補助の要件としている。
「家族連れで移住すれば100万円を支給」とは、心くすぐるフレーズだが、事業のスタート元年は移住支援金の支給は「連続5年以上、東京23区に在住または通勤していること」を要件に、移住支援金の交付は全国で80件に満たない結果に。本県では、初年度の交付決定はゼロだったと聞いている。地方公共団体からは「対象要件が厳しすぎる」との声もあがり、国は2020年度から支援対象要件を緩和・拡大した。
例えば、2020年度から東京圏での在住・通勤期間は連続5年以上から、直近10年間で通算5年以上に緩和。また、2021年度からは、若者のUIJターンを促進するために東京23区内の大学へ通学し、23区内の企業へ就職した者については、通学期間も対象期間に加算可能に。また、新型コロナウイルス感染症の拡大でクローズアップされたテレワーカーについても、東京圏在住の会社員が本人の意思により地方移住して引き続き業務をテレワークで実施する場合でも対象要件に加える、と仕切り直しだ。
Q:本県のこの移住支援金制度は、2019年度の支援交付ゼロでスタートしたが、その後、移住対象者の要件も緩和されたことで利用促進にもつながったと思うが、これまでの移住支援金の実績は?
【労働局長答弁】
移住支援金の実績については、事業初年度である2019年度は、マッチングサイトの開設準備や市町村との調整に時間を要したため、制度の周知期間が十分確保できなかったことや、マッチングサイトの掲載求人数が少なかったことなどにより、年度内の支給実績はなかった。
そのため、東京に設置する「あいちUIJターン支援センター」において、一層の制度周知に努めるとともに、掲載求人数を増やしていく中で、支給人数も増えてきており、2020年度は6名に支給し、今年度は8月末現在で5名への支給が決定している。この11名については、移住して就職した方が9名、起業した方が1名、今年度から支給要件に追加されたテレワーカーが1名という内訳になっている。また、移住先の市町村の内訳といたしましては、名古屋市に7名、一宮市、豊田市、西尾市及び清須市に、それぞれ1名となっている。
次に、移住の受け皿となるマッチングサイト掲載企業についてだが、本県当局に聞いたところ、移住支援金対象事業企業数は2019年度末時点が188事業者で求人数515件、2020年度末時点は310事業者・714件、2021年度は8月末現在で375事業者・814件で、着実に増えていることは評価できる。そして、2021年度の対象事業者を業種別割合でみると、一番多いのが「製造業」(23.7%)で、次いで「建設業」(20.3%)、「卸売業・小売業」(14.4%)と続き、ここで少し気になるのが、製造業と建設業で全体の44%を占めていること。それはモノづくり産業県愛知としては当然のことではあるが、頭をよぎるのが、本県の特徴で長年の懸案である若い20代女性の東京圏への流出問題だ。本県は製造業の雇用機会は豊富でも、女性が「働きたい」と希望する3次産業関連の雇用機会が少ないことが若い女性の東京流出に拍車をかけるひとつの要因だといわれている。若い女性のUIJターンを促進させるためにもマッチングサイトでの業種の幅を広げていくことも必要だと思う。この移住支援金事業は2024年度までの時限事業で、今年度は3年目の折り返しだ。
Q:そこで、移住支援金制度の課題を精査し、この制度を活用してさらにひとりでも多く本県へと移り住んでもらう人を増やすための取組は?
【労働局長答弁】
一人でも多くの方に活用していただくためには、この制度の内容や本県の魅力を伝える情報発信力を強化するとともに、マッチングサイトの掲載求人を数多く確保することが必要であると考えている。
情報発信力の強化については、「あいちUIJターン支援センター」において、LINEやツイッターなどのSNSを積極的に活用するとともに、新たな取組として、本年8月から、名古屋よしもとに所属する芸人が市町村の魅力を紹介するユーチューブ動画の配信を開始したところである。
現在15の市町村動画を配信しており、今後も順次追加し、愛知に住み、働くことの魅力を幅広い年齢層にアピールしていく。
求人の確保については、求職者一人ひとりのニーズに対応できるよう、多様な業種や職種の求人をバランスよく増やしていくとともに、女性からの希望が多い事務職の求人を1件でも多く開拓していきたいと考えている。
一方、今年度から制度の対象となったテレワーカーについては、移住に際し就職や転職を伴わないことから、直接的に県内企業の人材確保につながらないのではないかとの声もある。
テレワーカーが本県の住みやすさや働きやすさを実際に体験することで、本県の魅力を他の東京圏の在住・在勤者に伝える効果が見込まれる。さらには、魅力的な県内企業の存在を身近に感じてもらうことで、将来的な県内企業への転職といった、人材確保にも結び付くという効果が期待されることから、引き続き本制度の積極的な利用を促していく。
さて、1990年代までは「田舎暮らし」というと、老後に悠々自適の暮らしを望むシニア世代が大半だった。それが2000年代に入り、地域おこし協力隊や空き家を活用する空き家バンク制度が登場し、若い層が「田舎暮らし」もいいかも…と反応し始めたことで、今では幅広い年代層が地方移住のキーワード「田舎暮らし」に関心を寄せられるようになった。
本県では、新型コロナウイルス感染症の拡大等による首都圏在住者の地方暮らしへの関心の高まりを三河山間地域・離島地域にも波及させたい、と2021年4月から東京都千代田区有楽町の「ふるさと回帰支援センター」に愛知県単独の相談ブースを新設した。同センターに道府県では42番目の開設になるそう。三河山間地域・離島地域への移住相談に対応するため、これまでのカタログ中心の愛知県ブースではなく、専属の相談員を常駐させ、首都圏における移住・定住に関する相談体制を充実させたところだ。しかし開設早々、コロナ禍で度重なる緊急事態宣言の発出により窓口の閉鎖や対面相談の中止など、相談業務は縮小傾向で、少々出鼻をくじかれた状況にあることは否めない。
相談員は長年愛知県に住み、本県の魅力に精通している名古屋の放送局出身の方と聞いており、愛知県内や三河山間地域・離島地域の魅力を首都圏の方によりダイレクトに伝えていただけるものと思う。
Q:コロナ禍で地方移住、その中でも「田舎暮らし」に関心が寄せられる中、首都圏から三河山間地域・離島地域への移住促進を図るため、新しくスタートを切った「ふるさと回帰支援センター」を活用した今後の取組みは?
【総務局長答弁】
近年、若い世代を中心に都市部から地方へ移住しようとする潮流が、新型コロナウイルス感染症の拡大等の影響から、より一層強まっている。東京都有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」にも、移住に関する様々な相談が数多く寄せられており、センターへの問合せ・来訪件数は2008年度が2,901件であったのに対し、2020年度は、40,729件もの問合せ・来訪があるなど、地方暮らし・移住に向けた情報へのニーズの高まりが見られる。
これまでも県としては、都内主要駅にあるデジタルサイネージを活用したプロモーションや移住フェアへの出展等、広報活動を中心に実施してきたが、こうした首都圏から地方への移住の関心の高まりを受け、きめ細やかな移住に関する相談を行うため、今年度から新たに同センターに専属相談員を配置した。
本県に精通した専属相談員が、潜在的な三河山間地域・離島地域への移住希望者、移住関心層を掘り起すとともに、相談者の個別ニーズに合わせた地域の情報提供や市町村と密接に連携した相談を行っていく。
また今後は、同センターにおいて、移住相談会やセミナーを開催するとともに、当地域の市町村にもイベント等に参加いただくなど、県と市町村が連携・協力しながら、さらなる情報発信に努め、首都圏から三河山間地域・離島地域への移住促進につなげてまいりたいと考えている。
さらに、コロナ禍で脚光を浴びている新しい働き方「ワーケーション」という言葉を頻繁に耳にするようになった。「ワーケーション」とは、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)の造語で、国内外のリゾート地や帰省先、休暇中の旅先に長期滞在してパソコンなどを使って仕事をするテレワークのこと。
Q:本県では今年度、新たなライフスタイルへの対応と働き方が見直される中で、三河山間地域においてテレワークやワーケーションを促進・誘致するためのマーケティング調査を実施しているとのことだが、今後、調査の結果をどのように活かしていくのか?
【総務局長答弁】
新型コロナウイルス感染症の拡大等による働き方の変化により、テレワークやワーケーションへの関心が高まっている。
内閣府の調査によれば、2021年4月から5月に、何らかの形でテレワークを実施している方の割合が、全国では約31%、東京都23区では約54%となり、ワーケーションについても、就業者の約34%、このうち20代では約50%が実施したいと回答するなど、高い関心が示されている。
こうした中、本県では、「あいち山村振興ビジョン2025(にせんにじゅうご)」の中で、三河山間地域におけるテレワーク・ワーケーションの促進・誘致を主な取組事項に挙げ、今年度、当地域の特徴を活かしたワーケーション等についてのマーケティング調査を実施している。具体的には、東海3県の企業2,000社、個人1,000人を対象としたアンケートにより、テレワーク・ワーケーションに関するニーズや三河山間地域での実施可能性などを調査している。
今後はこのマーケティング調査結果の分析や課題の整理等を進めつつ、先導事業としてモニターツアーや施設の環境整備等による実証実験を並行して行い、三河山間地域の特徴を活かしたテレワーク・ワーケーションの推進に取り組んでいく。
質問の最後はPR戦略について。本県は、山や海などの豊かな自然に恵まれ、車でも鉄道でも飛行機でも、全国どこへでも行きやすい抜群のアクセスに、何よりも、日本一の産業県として安定した経済基盤がある。加えて、生活コストの安さ、職住近接で働きやすい分、余暇など自分の時間を大切にライフスタイルも充実できる…と愛知の魅力を挙げればアレもコレも。それなのに、過去には名古屋市が行なった国内主要8都市を対象にした独自調査で「訪れたい街のワースト」となったことを、とある週刊誌で揶揄された。これを発端に、名古屋市は「行きたくない街ナンバーワン」の自虐的PRを行なったが、愛知県は「住みやすさは愛知が一番!」と東京や大阪と比較していかに愛知が住みやすいか
“反転攻勢”にでたのは2017年のこと。
これから居住地を選択していく東京圏の大学生や若い女性などを中心に「働くなら愛知、住むなら愛知」と『愛知の住みやすさ発信事業』をスタートさせた。本県が住みやすさをPRして移住を促すその背景には、本県の若者層、特に20代の女性を中心に東京圏への転出増が止まらない実状がある。今でも20~30代の女性は男性より約1割少なく、このまま男女のバランスが崩れていくと人口減が加速しかねない。
本県では、東京と愛知のどちらが住みやすいか…を対比して移住促進を図ってきた。例えば、愛知は職場と住居も近く、平均的な通勤時間は東京より30分以上短い。住宅地は平均地価が東京の3割以下とマイホームを持ちやすく、民間賃貸住宅の家賃は東京の6割以下。物価は安く、住環境も抜群!と愛知の魅力を羅列している。これまでパンフレットにウェブページ、SNSで学生や若年女性、ファミリー層向けに愛知の住みやすさの情報発信を行ない、昨年度はSNSで影響力をもつ「インフルエンサー」をあらたに起用。「愛知の住みやすさ発信サイト」では、若い層に関心を持ってもらえるよう、愛知でのライフスタイルを提案するPR動画も発信してきた。さて、移住への関心度はアップしたのだろうか…
私は、愛知の住みやすさを若い女性をターゲットに発信することはもちろん重要だと思うが、それと同様に、愛知県が子育てしやすい県であることをもっとファミリー層にも伝えてほしいと思う。
たとえば、2020年の調査によると、2015年に比べて、本県内54市町村のうち、32市町村で人口が増加している。合計特殊出生率も政府が目標とする「希望出生率1.8」を2013~17年時点で達成した自治体が全国1741市町村のうち144ある中で、本県には大府市の1.93を筆頭に5.5%に当たる8市町あること。そして、2019年度の個人住民税収を2009年度と比べると、愛知では税収が増えた市町村が65%を占め、区画整理で生まれた住宅に流入し、充実した支援で子育て世代を呼び込み税収を増やした例が目立つということ。要するに、本県では、住民税増収を子育て世代が押し上げている自治体が増えており、言い換えれば移住の条件で重視される「子育てしやすい県」だということを、さらに東京圏をはじめ県外に発信してもらうことを要望しておく。
Q:2017年度からの「愛知の住みやすさ」発信事業も今年で5年目となる。これまで愛知の住みやすさをPRしてきた手応えはどうか?
また、今般の新型コロナ感染症拡大の影響を踏まえ、本県として今後、愛知の住みやすさの発信をどのように進めていくのか?
【政策企画局長答弁】
本県は、これまで、主に若年層をターゲットとして、Webの「愛知の住みやすさ発信サイト」やPRパンフレット「愛知に住みたくなるBOOK」による情報発信のほか、懇談会形式によるPRイベントの開催、民間情報サイトへの広告記事の掲載、SNSを活用したフォトコンテストなど、様々な手法を用いて愛知の住みやすさを発信してきた。
とりわけ、2018年度から3年間、東京圏在住の若年女性等をターゲットに毎年実施してきたPRイベントは、常に満足度が高く、参加者アンケートで、愛知県への関心が高まったなど好意的な回答を毎回数多くいただいている。
また、本2,000件であった応募総数が昨年度は約7,000件へ大幅に増加した。
これらの事業を通じて、愛知県への関心は徐々に高まってきているものと認識している。
次に、愛知の住みやすさの今後の発信については、新型コロナウイルス感染拡大の状況を踏まえ、今年度から、特にオンラインによる情報発信を強化する。
具体的には、若年層に愛知の住みやすさを分かりやすく伝えるマンガ動画を作成して、動画サイトで配信する。また、より幅広い層の方々の認知度向上を目指して、「愛知の住みやすさ発信サイト」を楽しくご覧いただけるよう、「自分に合った愛知のライフスタイル診断」コーナーの新設や検索順位を上げるための改修などを行う。
さて、これまでの国や自治体の移住政策は、東京圏の地方出身者を呼び戻すのが主体だった。しかし、新型コロナ感染症拡大を機に“東京を離れたい” と考える東京圏出身者の地方移住希望も増加傾向にある。ぜひ、移住先の選択肢に「愛知県」を加えていただきたいものだ。
今、地方への移住スタイルも、移住の要件も多様化している。だから移住に関する知りたい情報もいろいろだ。例えば、テレワーク移住を考えている、田舎暮らしで農業に取組みたい、仕事の求人情報が知りたい、空き家を探したい。その他にも、県内各市町村の情報が知りたい、ワーケーションできるところを探している。はたまた、地方移住を検討したいけど即行動は不安なので“お試し”で移住体験できる先はないか?
など幅広い移住ニーズに応えるとしたら…
Q:コロナ禍で地方移住に関心が高まる中、本県への移住を促進していくための施策をどのように推進していくのか?
【政策企画局長答弁】
本県では、「移住・定住の促進」に係る施策について、第2期「愛知県まち•ひと•しごと創生総合戦略」の基本目標の一つ「人の流れづくり」に位置づけ、関係各局で、「交流人口や関係人口の拡大による移住促進」、「UIJターン希望者と県内企業のマッチング支援」などの事業を進めている。
これらの事業については、毎年度、有識者等で構成する「愛知県まち・ひと・しごと創生総合戦略推進会議」において、達成状況等を踏まえて意見をいただき、検証を行いながら、施策の着実な推進を図っている。
また、本県は、都市部から山間地域や離島まで、移住を考える方々の希望に応えられる多様な地域を擁しており、各市町村においては、それぞれの特色を活かした移住に関する取組が行われている。
そこで、県と市町村で行っている移住に関する取組を効果的に発信し、本県への移住促進につなげるため、「愛知の住みやすさ発信サイト」内に、それらの情報を一元的に発信するポータルサイトを新たに設けることとした。
ポータルサイトでは、移住に興味や関心のある方々が、「仕事」や「住まい・暮らし」、「結婚・子育て」などのカテゴリ別に、県や市町村ごとの様々な施策にアクセスできるよう工夫していく。
これからも、こうした取組を通じて、関係各局や県内市町村としっかり連携しながら、感染症を契機とした地方移住への関心の高まりを、本県への移住につなげてまいる。
2.「男性DV被害者」が増加する現状下における、
本県の相談支援について
警察庁の発表によると、令和2年に全国の警察に寄せられたドメスティックバイオレンス(DV)の相談や通報などは82,643件で前年比436件の増、平成13年のDV防止法施行以降、過去最多を更新。新型コロナウイルス感染拡大により在宅時間が増えていることで、家庭内暴力が潜在化している可能性があると分析されている。一般的に、家庭内暴力や配偶者間暴力といわれるDVは女性が被害者として語られることが多いが、今、男性DV被害者は増加傾向にあり、令和2年は男性23.6%、3年連続で2割を超えているそう。では、本県の配偶者(妻)からの暴力事案等の取扱いについて男性被害の件数を愛知県警に聞いてみた。
それによると、今から15年前の平成18年の本県のDV相談等件数は全体で1,182件。その99.6%が女性の被害者だったが、男性の被害者も0.4%にあたる5件あった。それが10年後の平成28年にはDV相談等件数は3倍の3,565件となり、内、男性被害者は平成18年の100倍にあたる505件に。さらに平成30年には男性被害者は1,000件を超え、令和元年には1,353件と過去最多に。この年は、本県警察の全DV相談等件数は4,615件と過去最多を更新しており、男性被害者件数も比例して増加。3割に迫る過去最多を記録した年だった。実に平成18年の5件からこの15年間で男性被害者件数は270倍に跳ね上がったことになる。この傾向について愛知県警察に聞いてみると「夫婦間のトラブル事案については、取り返しのつかない事件に発展するケースもあるとして『抑止』の観点から事案の軽重や被害者の性別を問わず幅広く、かつ積極的に介入し、相談などへの対応にあたっていること等が要因ではないか」とのこと。
妻から夫へのDVは、殴る蹴るの身体的暴力もあれば、心無い言動によって相手の心を傷つけたり、完全に無視したり、行動を制限したりの精神面での暴力とさまざま。男性DV被害者に共通する課題は、暴力被害を受けている当事者の男性が「恥ずかしくて誰にも言えない」、勇気を出して周囲の人に打ち明けたとしても「信じてもらえない」、茶化されて終わってしまうという、男性が抱える特有の意識「言えない現実」がそこにはある。
男子は強くなくてはならない!男のくせに情けない!といったジェンダーバイアス(固定的観念)が配偶者からの暴言・暴力を潜在化させているが、内閣府が令和2年度に実施した「男女間における暴力に関する調査」でも、男性被害者の約6割が誰にも相談しなかったと答えていることからもわかる。
配偶者から暴言・暴力を受けている男性被害者は、自分さえ我慢すればいい、と心がギリギリの状態になるまで被害を隠し通そうとする傾向にあるため、その間にPTSDの症状が深刻化。最悪の場合は自殺や殺傷事件に発展するケースもあり、今、警察でも自治体でもこの男性DV被害者の増加を軽視せず、相談窓口へ足を運ぶことへの積極的な働きかけをしている。
本県でも平成30年10月27日に、配偶者・パートナーから暴言・暴力を受けている男性の相談窓口『愛知県男性DV被害者ホットライン』を全国で5番目に開設した。毎週土曜日の午後1時から午後4時まで、男性臨床心理士が電話相談にのっている。
Q:今年で開設から、まる3年を迎えることとなる「愛知県男性DV被害者ホットライン」の、これまでの相談実績と事業の課題は?
【福祉局長答弁】
2020年度も29件となっている。
このように、DV相談件数は、横ばいで推移しており、ホットラインの認知度の向上が事業の課題と考えている。
また、2020年度の内閣府の調査によると、DV被害者のうち、どこにも相談しなかったと答えた割合は、男性は約6割と、女性の約4割と比較しても多くなっていることから、男性はDV被害を相談しづらい、という課題もあると推測される。
この「男性DV被害者ホットライン」は、孤立感の中で、なかなか周囲に理解してもらえない現実を受け止めてくれる「駆け込み寺」だ。本県では県ホームページのほか、毎年4万枚を超える「男性DV被害者ホットライン」のPRカードを作成、県内54市町村などに配布をしているそうだが、まだまだ存在が周知されているかは疑問だ。
そこでひとつの提案を。毎年11月19日は「国際男性デー」である。男性の健康に目を向け、ジェンダー(社会的性差)の平等を促す目的に1999年カリブ海の島国トリニダード・トバゴで始まったといわれている。日本では、3月8日の「国際女性デー」はずいぶん知られるようになったが、11月19日の「国際男性デー」はほとんど知られていない。ただ、全国各地で、この日を「男性の生きづらさを考えようという日」にしようということで、ジェンダー関係の改善を目的とするイベントも開催されている。
今後、この「国際男性デー」をもっと広めていこうとの動きもあるようなので、例えば、この日に合わせて「男性DV被害者ホットライン」のPRをすればより効果的ではないか。
Q:本県ではこれまでも、「男性DV被害者ホットライン」のPRをしているが、PRを集中的に行う期間を定め重点的にホットラインのPRを展開されてはいかがか?
【福祉局長答弁】
男性DV被害者が、気軽に安心してこのホットラインに相談できるよう、効果的な事業PRを実施し、認知度の向上を図っていくことが重要であると考えている。そこで、今年度は、「国際男性デー」や、国が主唱する「女性に対する暴力をなくす運動」が行われる11月に、ホットラインの周知カードの配布等を重点的に行っていく。
周知カードの配布枚数については、昨年度の約4万枚から、今年度は、2倍以上となる約10万枚とするとともに、配布先は、これまでの市町村やスーパーだけでなく、新たにコンビニエンスストアを加えていく。
また、カードの配布に当たっては、配布先の案内窓口やサービスコーナーのみでなく、男子トイレ等でのカードの配置など、相談したい男性が周りの目に気兼ねなく、カードが手に取れるような配慮についても、配布先にお願いしていく。
さらに、11月に開催する市町村DV相談職員研修会において、男性DV被害者の状況について周知するとともに、ホットラインに係るチラシを配布するなど、事業のPRを幅広く行っていく。
今後とも、このホットラインの周知を推進していくとともに、誰もが配偶者の暴力について、相談しやすい環境づくりに努めてまいる。
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